空へ向けた総2階の家

島根県浜田市の注文住宅

この家の玄関アプローチは、階段を4段登り、地面より約80㎝程高い場所にあります。車通りと人通りが多い道路に囲まれた家に、周りと同じ高さでテラスを作っても、目線があって落ち着いてＢＢＱもできません。スラブレベルにより目線をずらしていくことは、お互いの気にしてしまう距離感を確保することにつながり、近くを通っても気にならずに活動を行うことを可能にします。床の高さを、改めて考えるきっかけにしてみてください。

この工業団地に、地面に根付いた植栽が少し似つかわしくないように感じました。コンクリートのテラスと駐車場がメインの外構に、方向性を持たない円形のポット植栽が散りばめられています。自然的ではなく人工的に、庭のデザインアプローチも外部環境を読み取りながら、そして家のデザインとも合わせながら設計していきます。しかし転倒の恐れがあるため、植栽を配置する箇所はコンクリートをあえて打設せず、地面に対して転倒防止策の杭を打ち込んでいます。

この家は玄関を入ると、床より高い玄関土間がお出迎えします。理由は、外部のテラスを地面より約80㎝あげているからですが、それが様々な影響を及ぼしています。一つに、玄関ドアも一緒に上がるので、玄関土間が上がります。入った時の開放感をいかに与えるかは、建築をつくる上で重要な要素ですが、この家は入った時の高さで1階と2階の狭間にいるような感覚を与えることにより開放感を獲得しています。さらに、構造的には階段の1段目・2段目も兼ねています。

先ほどの吹き抜けの役割を感じる2階内部の風景です。

この家は、まるでその家族のシェルターのように住む人を包み込みながら、街並みの中に溶け込むように立ち現れているのです。

特徴的な窓の配置から光が漏れている様子です。家は、朝から夜までその姿を街に向けています。カーテンを開けていても気にならないその立ち姿は、家の中からも外の人からも気持ちの良い景色になります。

玄関先には庇をつけることが多いですが、庇とは本来デザインを邪魔してしまうものです。許容応力度計算と同時に構造計算された鉄骨庇は、薄く、無骨に、限りなくシームレスな状態で取り付けられました。この工業団地の空気感も吸収しつつ、街並みから外れずに、外観デザインも邪魔しない庇。家を構成する一つ一つの要素まで丁寧に作りこんでいます。それは全て、デザインと、その家の在り方と、そこに住む家族の生活に直結していきます。

この家は南側に全面吹き抜けが計画されています。吹き抜けは開放感を与え、光を落とします。しかし実のところ、他にも可能にする操作があるのです。それは、【窓の自由な配置】でした。1階にいて窓を見たときに周りの視線が重ならないように高い位置に配置された開口計画、しかし2階から見ると、足元の高さに窓が開いています。この窓の配置は、外観から言うと特徴的でシンプルなデザイン、1階内部から見ると光を落とし空へと抜けた窓の配置、そして2階内部から見ると空中に建っているような浮遊感を獲得しています。窓の配置一つがいかに重要な役割を担っているのか、そのことを体験してもらえたら嬉しいです。

この家は色を統一することで玄関ドアの存在を消したり、シンプルな外観デザインを獲得しております。そのコンセプトは内部も統一されています。土間、クロス、家具、建具、手摺、キッチンパネル、コンセントプレートまで、内観を構成する要素は多岐にわたりますが、可能な限りの全ての要素をグレージュで統一した内観になっています。このことにより、内部に入ると洗練された感覚を感じることができます。隠し扉の玄関ドアを開け洗練された内部空間へ、街の喧騒から一気に凛とした静けさの中へと世界が変わります。高性能な断熱・気密性能と、統一されたデザインが、この街で暮らす人の寛ぎを外部環境から守ってくれています。

玄関ドアは本来、ここが入り口ですよと示す場所であり、その家の一番の顔になる部分です。その玄関ドアを外壁と同じ仕上げにすることにより、まるで隠し扉のようにその存在感を消しています。周囲の目が気になる場所に家を建てるということは、入り口や大きな窓が視線を集めてしまいます。存在感を消すということは、周囲の視線をそっとそらしながら、同時にシンプルな箱のような外観を実現することにつながります。